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深海への旅(16)

その68 海底にある人の顔

東京大学海洋研究所加藤和浩KazuhiroKATO
私が初めて「しんかい6500」の映像を見たのは琉球海溝海側斜面の潜航のものでした。そのとき急崖に人の顔のレリーフがあることに気がつきました(写真一1)。この写真は「しんかい6500」の118潜航の映像をビデオプリントしたものです。この写真では(多分誰が見ても)明らかに人の顔に見えますが、おそらくカメラの角度がちょっとでも変わってしまうと、それはただのマンガンでコーティングされた急崖になってしまい特に感激するものではなかったでしょう。
ここで琉球海溝海側斜面を覆っているマンガンについて簡単に書かせてもらいます。一般によく知られているマンガンクラストはコバルトやニッケルといった金属元素に富んでいますが、琉球海溝海側斜面のものにはこのような金属が少なく(臼井、しんかいシンポジウム)、形態も琉球のものは下に垂れ下がった形を示しています。また存在深度においても水深6,500mでマンガンの酸化物が発見されたのもこの時が初めてではないかと思われるようなものです。そこで従来のマンガンクラストと区別する意味で、マンガンペイブメントと呼んでいます(藤岡ほか、「JAMSTEC深海研究」第10号)。
一般に水深が深く生物の存在が少ない海底は、動きが少ないので印象としてどうしても「静」あるいは「死」のイメージを抱いてしまいます。その中で写真で示した「人面崖」や海底堆積物上にある年物の這い跡の模様を見ると、うまく言えないのですが人間の力ではどうにもならない神秘というかそういうものに感動して鳥肌が立つような感覚を感じたことをおぼえています。という半面、同じ潜航で水深6,300m付近で見られたスニーカーを見ると、なんでこんなところにスニー力一が、といったような神秘的な感動とは別な冷めた疑問を感じてしまいます。

写真-1 琉球海溝海側斜面

073-1.jpg

 

 

 

 

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